学科長・専攻長からのメッセージ

建築設計とは
「確かな技術」の上に展開する「豊かな感性」

  • 岡崎 甚幸 教授

    Shigeyuki Okazaki

    工学博士 一級建築士

    京都大学工学部建築学科 卒業
    ワシントン大学大学院 建築都市デザインコース 修了
    福井大学工学部建築学科 教授
    京都大学大学院工学研究科生活空間学専攻 教授
    京都大学名誉教授
    UIA SPORTS AND LEISURE GROUP 委員(日本代表)
    日本建築学会 京都の都市景観特別調査委員会 委員長
    文部科学省ナショナルトレーニングセンター委員などを歴任

    専門:建築設計、建築計画
    論文:居住空間構成法に関する論文
    群集歩行シミレーションモデルに関する論文
    アイカメラによる視覚探索に関する論文など

    建築設計作品:サンドーム福井 ほか

    >>岡崎教授HP

 

 ローマ時代のウィトルウィウスによって提唱された建築の三大要素は「強・用・美」です。この価値体系によると、建築は安全でなければ、使いやすくても意味がありません。安全で使いやすくなければ、いくら美しくても無意味です。しかし美がなければ建築ではありません。「強」、「用」、「美」は下から順に積み上げられた三段積みのレンガのような関係にあります。

 一方、「真・善・美」という周知の価値体系があります。建築の「強」と「用」はこの「真」に相当します。「強」と「用」は、受験勉強と同じで、概念操作によって構築される認識あるいは理性の働きによって求められ、近代以降、科学や技術として急速に進歩しました。科学は現在の事象を法則化し、法則は未来の事象を予測します。法則は常に進化し、古い法則はその都度無用のものとなります。

 「強・用・美」にも「真・善・美」にも登場する「美」は、ユングによると意識と無意識の中心にある「自己」の象徴的自己実現によって具体化されます。美は個人の内面の表現です。普段の行為に内面が強く表現されれば、そこから「美」が生まれます。「話す」は「歌」に、「歩く」は「踊り」になるように、建築の「強」と「用」は「美」になります。

 科学は法則化を繰り返し、法則はどんどん普遍的な存在になります。これに対して「美」は個性的なものほど普遍的です。英語が堪能で社交的な人が国際人ではありません。自分の生まれた国や町の文化に詳しい人こそ、外国人には貴重です。独自の風土や文化をもつ都市ほど国際的な都市です。人や都市や芸術は個性的であるほど国際的、すなわち普遍的です。「美」は自己に深く関わり、個性的な自己ほどより美しく普遍的です。だから美しい芸術作品は時間がたっても古くなりません。それぞれの時代の天才たちが競演する歴史都市が世界の人々の故郷であるのはこのためです。工学の諸学は建築学を除いて自らの歴史を考える学問分野をその中にもちません。建築学にだけ自らの歴史を問う建築史学があり、歴史的建造物や歴史都市は多くの人々の心を癒します。それは建築が自らの「美」を問う学問であるからです。

参考文献:河合隼雄 『ユング心理学入門』 培風館

 「善」は建築が互いに協調し、助け合い、美しい町並みを形成するために不可欠な倫理の問題です。日本の都市景観は個人の経済的利益をあまりにも重視するために色彩や高さや形態や材料が千差万別で、広告が氾濫しています。これに対して西欧の歴史都市は個々の建築物や広告部の厳しい相互規制によってその伝統的景観を継承しています。

 本学科・専攻では、「強」と「用」を構築するに相応しい基礎技術を習得し、その上に個人の「豊かな感性」から湧出る「美」の観点から建築空間を設計する方法を学びます。

 概念のみの生活は人生をカサカサにします。建築の設計のように「強」と「用」という概念の上に「美」という自己の内面から湧出る感性を必要とする仕事こそ一生の仕事として選ぶべきではないでしょうか。あなた自身の人生を稔りあるものにするために。

 

参考文献:森田慶一 『建築論』 東海大学出版会